アルサデラ、ヴァロラン、プレセル計画(1984-2057~)

この文書は、日本国、他4国の政府から提供された報告書を基に、作成したものである。

 1984年、アメリカは技術の発展に伴い、深宇宙の研究のために、無人探査衛星「セニーラ」を打ち上げた。セニーラは、深宇宙からの信号を受け取るため、衛星軌道上に入り、受け取った信号を地球に向けて発信した。

 この計画を、アルサデラ計画と呼ばれ、この計画は、順調に進行した。

 しかし、1988年、突如セニーラからの信号が途絶えた。アメリカは有人による調査が行われた。セニーラ外部に異常は見られなかったため、内部による調査が行われた。その時、内部から30cmほどの黒い欠片が発見された。政府直属の研究機関は、持ち帰った欠片の調査を行った。

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十六夜月の記憶

 リハーブリッジ大陸に住む者なら、誰もが知っている。この大陸にある三大国家について。

 この三大国家のうち、最も軍事力の高い国家、ファロライン。それを称賛する者、疎ましく思う者、見方はどうであれ、一目置いてることに違いは無い。

 ファロラインでは、他の2国とは違い、その歴史は戦渦の歴史であった。元々オーズライン家が治めていた小さな国が、この長い歴史の中で、国土を広げ、今では周りから一目置かれる存在へと変わった。

 負けを恐れないこの国だが、一度だけ、この国家が負けた歴史があった。それは海をまたいだところに位置する、パラディウラ。戦いを望まない国家であったこの国が、一度だけ戦火の中に飛び込んだ戦いだった。当時最強と呼ばれていた国家が、この戦いで、黒目が付くなんて誰が予想しただろうか。

 そんなファロラインのとある地域で、物語は進み出す。

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ACT1 淡い桜の入学式

Code:History+*1/Seasons*2

Contents:1-1/1-2/注釈

1-11-2注釈

 __17度目の春がやってくる。

1-1 朝日の花々

 七分咲き桜の道路を、僕(松本碧*3)は自転車に乗って進む。淡いピンク色の花びらが風に吹かれて揺れる。桜の木々が長く並ぶ道を走り、桜の花びら、木々の後ろにある小川の音を聴きながら、学校へ向かう。

 学校へは家から15分近くかかる上、部活の仕事もある。そのため、いつもはあんまり登校する生徒がいない時間帯に登校するが、今日はあまり生徒がいない。

 今日は白櫻高等学校*4の入学式があり、その準備のためにいつも早く家を出たのだ。園芸部*5所属である僕は、会場である講堂に、プランターに植えてある植物を移動させる作業がある。ステージ上と、講堂までの廊下、全部で48個のプランターの設置作業、部員8名、そのうち6名が女子生徒。作業を早く終わらせるために、まだ誰も登校しないであろう時間に登校することにした。

 「第182回入学式」と書かれた置き看板が置いてある学校の正門を通り、駐輪場に自転車を、鍵を掛けておく。誰もいないと思ったけど、駐輪場には自転車がいくつか止まっていた。早すぎるぐらいだと思ってたけど、もう来ていたとは。

 集合場所の花壇の前には、もうみんな来ていた。まだ1人2人だけかと思ってたけど、まさかもう全員集合だとは思わなかった。

「すいません。遅れました」

駆け寄り、謝罪の一言を述べる。だけどみんなは「気にしないで」と言ってくれた。

「私たちが逆に早く来すぎたのよ。人数が少ない上に、貴方以外はみんな女だから、早く来て終わらせないと時間がかかっちゃうのよ」

 部長の「沢辺光里*6」先輩が優しく微笑んでくれる。その微笑みにすこしだけ心が軽くなる気がする。

「あとは、田中だけなんだけど、あいつはもう放っておいていいかな。返事も返さないし」

「田中先輩来てないんですか?」

 田中先輩*7とは、光里先輩のクラスメイトで、園芸部の部員。ずぼらな性格をしているけど、以外と気遣いができる人だ。

「ええ、朝連絡したんだけど、全然ダメ。どうせ家で寝てるんだろうけど」

「はあ」と大きくため息をついて、「パチン」と手を叩いた。

「1人いないけど、もう始めよっか。48個あって、結構大変だけど、みんなで分担して、早く終わらせよう」

先輩がそう言って、僕らは「はい」と返事をして、運搬を行い始める。プランターに植えられてる花は大半が長い間、日光に当てないとその花は開かない。人工日光(電光)では花は開かない。そのため、式典当日の朝、会場へ運び込む。僕はプランターを持ち上げ、講堂へと足を向ける。

 プランターに植えてある花は、ほとんどは知らないが、いくつかは知っている。僕が持っているプランターには、「碧桜*8」という桜の種族が植えられている。碧色の花びらが綺麗に咲き、散ったら、その花びらについている種から再び芽を出す。家にも碧桜が数輪咲いている。

 プランターは講堂のステージに4つ、ステージ前の座席の間(中央のみ)に28個。残りの16個を講堂前の渡り廊下に置かれる。それを、打ち合わせで指定した場所に、適確に置いていく。

 講堂の中には生徒会役員たちが2つのグループに分かれ、最終準備を行っていた。一つは椅子の上を布で拭き、一つは看板をつるす作業をしていた。黒カーテンが閉じられ、中はステージの照明しかついていない。*9そのため、足下が暗く、何かに足が引っかかってしまいそうだ。僕は足下をしっかりと確認しながら、プランターを置いていった。

 部員全員(1人除いて)がてきぱきと運搬をしたおかげで、作業は予定より早く終わった。終わってから気づいたが、今回はプランターに、別にプラスチック製の植木鉢に植えられた花もあったらしく、一気に2つ持って行ったりしたりして、短縮化をしていたらしい。おかげで開会までだいぶ時間が空いた。

1-2 迷い桜*10

 僕は学食前の中庭にある自販機で350mlのアップルジュースを買い、桜の木の下のベンチに腰を下ろす。七分咲きの桜は、沢山の花びらを開かせていたけど、全部じゃない。花びらと花びらのの間から太陽の光が差し込んでいて、辺りを木漏れ日で照らす。その桜の様子をただ眺めていた。

「__ふう」

ペットボトルの飲み口を口から離し、一息はき出す。優しく吹く風が枝を動かし、花同士がふれ合い、さわさわと音を立てる。音を聴きながら、再び飲み口を口に付ける。

「__んあ〜」

 声が聞こえ、ふとその方に目を向けると、うち(本校)の学校の制服を着た女の子が頭を抱えてしゃがみ込んでいた。

「もう、私のばか、ばかぁ。何でまた戻ってくるの〜」

新入生だろうか、目的の場所にたどり着けず、迷ったようだ。そっとしていてもいずれはたどり着くだろうけど、時間を考えると、そんなに悠長なことはできない。案内してあげた方が良さそうだ。

「だ、大丈夫?」

女の子に自分から話したり、1対1で話すのが苦手な僕は、勇気を出して声を掛けてみた。

「えっ、きゃっ!」

女の子は驚いてこっちを向いて、立ち上がろうとしたときに、足下が揺れ、後ろに倒れ込んでしまう。

「あっ!?」

後ろに尻もちをつくように倒れ込んだ彼女は、足を広げる体制で倒れた。この体制だと、スカートの裾が太ももの半分くらいまでしか長さがないため、当然スカートの中が丸見えになる訳で。

「きゃっ!?」

「っ、ごめん!」

僕は顔の前で両腕を×印のように腕を組んで、同時に顔も横に向ける。彼女はスカートで見えていた白い下着を隠し、上目遣いでこっちを見ていた。その時、顔を赤く染めていたみたいだけど、見ていないので、わからなかった。

「い、今、見ました、よね?」

「う、うん。ほんとにごめん」

 顔をそらしたまま、素直に認め、謝る。嘘をついたところで、見え透いてるのでどうしようもない。腕を少し下ろし、横目で彼女を見てみると、耳まで真っ赤になってうつむいていた。

「・・・」

気まずい空気が流れ、どうにかしようと話題を考える。

「そ、そういえば、何でここでしゃがみ込んでたの?」

気まずい空気もあるせいか、変に噛みそうになったが、なんとか言えた。彼女ははっとこっちを向いて、立ち上がろうとする。その時にそっと手を差し伸べる。

「ちょっと、場所が分からなくなったというか、道が分からなくなたというか__」

「要するに、迷ったと」

「__はい」

彼女は恥ずかしそうに、コクンとうなずいた。僕は少し考えて。

「じゃあ、行き先まで案内しようか」

「えっ!?」

彼女は驚いて、目を見開いた。

「いい、いや、大丈夫です!自分で戻れますから!」

「でも、ほっとくとまた迷子になりそうだし__」

突かれ、ぐうの音も出なくなって、「うぅ」と言いながら、ほんのり桜色に頬を染めていた。その様子に思わずクスリと笑ってしまう。

「どうして笑うんですか?」

「ごめんごめん、つい面白くて、クスス」

 「謝りながら笑わないでください。もう」

そう言われるも、笑いがやむことはなかった。それどころか、声をあげて笑い出してしまった。

「先輩、いじわるです。そうやって声をあげて笑うなんて」

「ははは、ごめんごめん。どうやっても収まらなくて__」

 笑いが収まると同時に、僕は彼女に案内をすることにする。

「さて、もうそろそろ戻ったほうがいいかも。教室まで案内するよ」

「あ、もうこんな時間に」

彼女は腕時計を確認すると同時に、驚いた。

「ほら、早く戻るよ」

僕はすこし早歩きで校舎へと向かった。彼女はその後ろを小走りで付いてくる。

 うちの校舎は広くはないうえに、複雑な構造でもない。なので、言ったら悪いが、彼女はただ単にマッピング能力*11が低いだけだろう。ちなみに、今年の1年生の教室は1階になるらしく、1年生の教室は分かるが、どこのクラス所属なのかが分からない。

「君は、クラスは何組?」

「えーと、私は2組です」

「2組ね、だったら、あそこだね」

 目的地が見え、僕は1-2の教室の前まで案内した。彼女は頭を下げた。

「ありがとうございます」

「どういたしまして」

 役目が終わり、僕は講堂前に戻ろうとしたら。

「あれ、碧くん?」

「えっ?」

声がした方に目を向けると、そこには1年生の時の担任、「阿部美晴*12」先生がいた。

「美晴先生。1年2組の担任になったんですね」

「うん、まさかまた1年生の担当になるなんて思ってもみなかったけど」

そう言って、苦笑いな先生は、どこか楽しそうだった。

「__何か楽しそうに見えるのは僕だけですか?」

「えっ?そんな風に見える?」

コクンと頷く僕に、先生は首をかしげる

「うーん、でも考えてみると、たしかに楽しいのかも」

「どうして?」

「だって、あなたたちのクラスも十分楽しかったけど、やっぱり新しく入ってくる子たちと過ごしたいなって。はやく教員の仕事に慣れるためにもね」

そういって微笑む先生。先生にも先生なりの頑張り方があるんだ。

「先生も頑張ってるんですね」

さっきまで黙って会話を聞いていた女の子が口を開く。

「まだ半人前で、ちょっと頼りないかも知れないけど、頑張るから、これからよろしくね」

「今度こそは無防備になったりしないでくださいね、放課後の個人__」

「そ、それは忘れて〜!!」

耳まで真っ赤にして言葉を遮る先生。前に数学の分からない箇所を教えてもらってるときに、暖房のせいで暑かったのか、襟元からボタン3つをためらいなく外した。しかも前屈みになって教えていたので、当然空いたところから胸元が見える訳で、しかも先生は僕が指摘するまで全然気づかない。

「も〜、せっかくいいイメージ作ってたのに、なんでそんなこと言うかな〜」

「釘を刺しておかないと、先生同じ事繰り返すでしょ。って、これ言うの何度目かなぁ」

何度も指摘してるのに、一向に直らないのは、女子校暮らしが長かったせいだろうか。

「言われなくてもちゃんと分かってるもん__」

本当に分かってるのか、と聞きそうになったけど、あえて飲み込む。そうであることを信じたい。

「それより、碧くん。そろそろ準備しないと__」

 話に夢中になってて気づかなかったが、時間はもうすぐ10時になろうとしている。開式まで時間がない。これ以上ここに用もなく残る訳にもいかないので、外に出る。

 講堂周辺に行くと、部員が集まっていて、おろおろとしていた。近くに寄ってみると、光里先輩と田中先輩が言い合っていた。

「__大体あんたはそうやっていっつもいっつも自分勝手で適当なこといって。少しは私の身にもなってみなさいよ」

「うるさいな、朝の7時半集合って早すぎるんだよ。俺は休みの日は基本昼まで寝てるんだよ。大体、教室の飾り付けや机の整理なんて生徒会にやらせておけよ」

「しょうがないじゃない、生徒会は人手不足で、私たちがしないでどうするの」

「__」

 まさか7時半にここに来て、教室の飾り付けとかをしていたとは思わなかった。僕は打ち合わせの時間(8時半)に来たが、どうやらその前に来ていたらしい。こっちはメールも電話も来なかったので、全然気づかなかった。

 口論の最中、田中先輩が僕の存在に気づいて。

「おい、松本、この口先女をどうにかしてくれ」

「えっ!?」

「誰が口先女よ!」

先輩のこういった所は前に何度も目にしているので今更驚かないが、こうやって助動*13を求めてこられると困る。

「なにを言い争ってるんですか」

「この男は遅れてきて、詫びの一つも言わないのよ!」

「だ・か・ら、真夜中に明日は7時半集合なんて言われても無理だっつってんだろ!こっちは寝てたし、気づきもしねーよ!」

「それでもちゃんと打ち合わせの時間に来る子だっていたし、その分、しっかりと働いてたわよ!あんたは働きもせずに寝てただけじゃない!」

ああ、もう。これいつまで経っても終わらないやつだ。しかももう講堂には人が沢山来ていて、こっちを見ながら講堂の中に入っていく。

「二人とも!喧嘩はやめてください!式が始まるまでもうそんなに時間はないんですよ!」

 このままだと式にも影響が出てくるので、仲裁に入る。二人ともはっとして、辺りも見回す。あんまり人が行き来する場所ではないが、大声を出せば当然周りに聞こえる。しかも見える位置にいたので、注目の的になっていた。

「あっ」

光里先輩は顔をみるみる赤く染めていく。田中先輩は「チッ」と舌打ちして。

「じゃあ、もう用はねーみてーだから、俺は帰るわ」

そう言って、そそくさと帰って行ってしまった。光里先輩は頭を抱えこんでしまった。

「あの、先輩__」

「んぅ?ああ、ごめんね。なんか変なところ見せちゃって」

そういって優しく笑顔を向けてくる先輩。そうやって無理に笑顔を作ろうとする先輩を見る度に、ある意味不思議さが湧いてくる。

「さっき7時半に集まって、教室の飾り付けをしてたって」

「ああ、あれね」

先輩は「ふぅ」と置きをはき出して。

「実は、昨日夜中に生徒会の友達が『人手が足りないから手伝って*14』って言われて。一応全員にはメッセージを送ったつもりだったんだけど、時間も時間だったから、多分見てる子なんてあんまりいないだろうなって思って、案の定あんまり来なかったし。まあ、急に連絡しちゃった私も悪いし、だから気にしなくていいよ」

 「__」

 先輩はそういってくれるけど、やっぱりどうしても心の中に罪悪感が湧く訳で。

「ほんとにすみません__」

そうやって、謝ってしまう。「気にしないで」って言われる程、余計に気にしてしまう性格なんだと、いつも思う。

「もう」

「うっ」

先輩が人差し指で僕のおでこを優しく押してきた。

「君はそうやって、気にしないでいいって言ってるのに、いっつも気にしすぎるところ、君の悪いくせだぞ〜」

先輩は今度、僕の頬を指で優しくつんつんしてくる。ソフトタッチなつつき方がまたくすぐったい。

「っぁ、先輩、くすぐったいです」

それでも先輩はつんつんをやめない。

「ふふっ、君のそういう反応、可愛い」

それどころか面白がって、今度は優しくつまんでくる先輩。

「う〜、えい!」

僕だってやられっぱなしなわけにはいかない。今度は先輩にしてやると思い、先輩の頬を指で優しくつまむ。

「ひゃう、こ、こら、つままない」

先輩の頬は柔らかくて、まるでつきたてのお餅みたいな感触。

「ふふふ、相変わらず二人は仲がいいね」

 園芸部の「星川*15」先輩がクスクスと笑いながら言った。

「ちょっと、からかわないで」

星川先輩は笑いながら、その場を後にした。

「は〜、私たちも行きましょうか」

光里先輩も、その場を後にしようとしたとき、こっちを振り向いて。

「いい、気にしなくていいことを長く気にしすぎるところ、ちゃんと直しなさいよ」

そう言って星野先輩の後を追っていった。続いて僕も後に続いた。

ご来場の皆様に、お願い申し上げます。間もなく、10時30分をもちまして、本校入学式を開会いたします。伴いまして__*16

 講堂にはもう沢山の保護者が席についていた。入学式*17の開会は10時30分。残り数分で開会する。僕はこの入学式に参加するため、後ろから2番目の席につく。ここには園芸部全員(1人除いて)が座っていた。僕は一番広い通路側に座り、開会を待つ。

「えー、皆様、本日はお忙しい中、本校第182回入学式にお越しいただき、ありがとうございます」

 時間になって、まず最初に本校校長、「久遠寺槭樹*18」校長先生がこの学校の歴史について話し出した。

「本校は、江戸時代から続く学校として、長きにわたり、多くの学び子を送り出してきました。本校は、元々数少ない女学校として存在してました。上流階級だけでなく、幅広い階級の子たちをこの学校で学び、世に羽ばたかせる。それがこの学校の創設者、「奥田慶留*19」氏の思想であり、教育者としての義務であると、当時の手記に書かれています。本校歴任の校長たちは、この手記を尊重し、この教育方針を保って参りました。この学び舎で学ぶ子たちのために、常に、その子たちに寄り添い、その子たち本来の力を開花させることを、本校教員への校訓として定めております。最後に、来賓の方々には、本校第182回入学式へのご参加、保護者の方々には、本校へのお子様の入学をご決断いただき、誠にありがとうございます。これにて、私の挨拶を終了とさせていただきます

 久遠寺校長先生のはじめの挨拶を終え、ステージから降りていく。その後、プログラムは新入生入場へと移る。

「それでは、新入生入場へ移ります。皆様、ご起立の上、講堂入口をご覧ください」

会場にいる全員が立ち上がり、講堂入口へと向く。そこから、担任の先生の後ろを付いてくるように、新入生たちが入場してくる。拍手はなく、ピアノのメロディーだけが、その場に流れる。

 今年の入学者数は、136名、全4クラス。小さい学校なので、入学者数も、例年とほぼ変わらない人数らしい。

 1組の次に2組が入場してきたとき、部員の先輩方が小さく驚いていた。理由は、聞かなくても分かる。全4クラスが入場し、席についたところで、ピアノは止まる。

「国歌斉唱」

 国家を、会場の後ろで待機していた吹奏楽部が演奏する。それに合わせ、会場内全員が斉唱する。1分近くある歌を歌う。

 それから、学校長や来賓の話があり、プログラムは着々と進み、在校生祝辞へ。

「在校生代表を紹介いたします。左から、生徒会会長『長峰亮』、会長補佐『久遠寺文紀』。園芸部部長『沢辺光里」、部員『星川真理菜』。吹奏楽部部長『米倉佳織』、部長補佐『竹下帆奏』。最後に放送部部長『前田水紀』、部長補佐『和泉幸太』。以上の8名です」

在校生の代表が前に出て、新入生代表(8名)の前に並び、会長部長が祝辞を述べ、補佐が花束を送る。

 時間は14時50分。来賓全員がの祝辞をする上、在校生祝辞もあるので、かなり時間がかかる。前の学校の時なんて12時くらいには終わってたのに。

「新入生退場。皆様、お起立ください」

 プログラムはもう終了にさしかかる。新入生が立ち上がり、退場する。それと同時に、吹奏楽部が優しい音楽を奏でる。その後、教員紹介や科目説明を終え、時間は15時30分、ついに終了。

「入学式ってこんなに長いんですか?」

「まあ、去年もこんな感じ?」

「マジっすか」

正直疲れた。こんなに長いなんて知らなかったし、そもそも祝辞を全員が言うから、長い長い。おかげで僕は未だに椅子に座ったまま。

「はい、これ」

光里先輩が渡してくれたのは、500mlのミネラルウォーターだった。僕はそれを受取り、すぐに飲み始める。

「それにしても、驚きだったな〜。みっちゃん先生がまた新入生の担任だなんて」

「それ。新米教師に2度も新入生を担当させるかな」

「でも当の本人は楽しそうでしたよ?」

「会ったの?」

「始まる前に」

 新入生を再び担当することに嬉しさを感じていた先生。少なくとも嫌っていう雰囲気はなかった。

「うーん、これは校長のいじめね。そうやって無理させる校長先生の呪いね」

「こーら、人聞きの悪いこと言わないの」

「私は特になにもしてませんよ?」

 園芸部部員の「夏芽先輩」の後ろには久遠寺校長先生が。

「こ、校長先生!?いるならいるって行ってくださいよ」

「ふふふ、ごめんなさい。いろいろと噂話をしていたので、気になっちゃって」

「ごめんなさい、うちの部員が人聞きの悪いこと言って」

「別に構いませんよ。それより、さっきの続きですが。クラスの担任を決めるのは私の仕事ではありませんよ?」

「えっ」

校長が言うには、「担任を決めるのは教務担当の長谷川*20先生が決定する」らしい。

「うわ〜、長谷川先生か。まあ、あの先生だったら絶対そういった嫌がらせするよね」

「確かに、あの先生嫌みすっごくイラつくもん」

ああだこうだと長谷川先生の悪口を言い出していくお嬢様方。長谷川先生のことは知っているので、気持ちは分かる。

「こらこら、人の悪口を言う物ではありません」

校長の注意に、彼女らは「はーい」と言って、話を切る。

「話変わるけど、みっちゃん先生は頑張っていけるかな?」

 新米教師としては、いろいろと不便だったり、分からないところとかが出てくるかも知れない。それを考えると、やっぱり新入生の担当を2連続でやらせるものではない。

「美晴先生なら大丈夫でしょう」

「何故?」

「美晴先生は、新入生を担任することに、何かしらのやりがいを感じてたそうですよ」

確かにさっき教室前でその話をしたときも、何かしら嬉しそうだった。

「きっと、去年担当したクラスがとても楽しくて、とてもやりがいを感じたのでしょう。だから再び新入生の担任でも嬉しそうにしてたんですね」

「あの様子だと、きっとしっかりとやってくれそうですね」

「ふふふ、そうですね」

メンバー全員でクスクスと笑う。たしかに美晴先生ならば、最後までやり遂げるだろう。あの性格だけ、心配なのだが。

「変なところでからかわれないといいですけどね」

「そこは彼女の一番の課題ですね」

 長く話し、時間は16時30分。1時間ほど話し込んでいた。校長先生はそのまま事務作業に、光里先輩と星川先輩はそのまま帰宅、他の夏芽先輩たちはこのままファミレスで食事するらしい。このまま学園にいてもしょうが無いので、僕はこのまま家に帰ることにする。

 通学路の道中にある桜のマーチを通りながら。

注釈

*1:一つの物語を、複数の内容、または路線(ルート)に分け、それぞれの路線を描く

*2:四季折々で姿を変える背景を元に、キャラクターたちの日常を描く

*3:まつもとみどり。1997年4月7日生まれ、白櫻高等学校2年生。頭の回転が良く、成績は上の中ぐらい。他人の意見を聞いて、それをちゃんと反映できる。人当たりが良く、目上の人に対しては、誰であっても礼儀良く接する。ただし、女子と接するのが苦手で、面と向かって話そうとすると緊張してしまう。女子だらけの園芸部の数少ない男子の一人。

*4:はくおう高等学校。小さな学校で、生徒数414名、教員数31名、総計445名が在学する学校。名前の通り、沢山の桜の木や花が植えられている。総合学科の学校で、カリキュラムに桜神町の歴史や伝統に触れたりする科目が追加されている。小さい割に、その学校の歴史は凄まじく、1832年(天保3年)に開校、当時は数少ない女子のみの女学校として開かれ、階級に関係なく、多くの生徒が教育を受けれた。当時はまだ女子校だったので、女礼や読書、和歌、詩、習字に琴などがカリキュラムとして組まれた。その後1923年(大正12年)に共学。また時の流れや西洋の文化に伴い、科学、地歴教育、手芸、家政などが新たにカリキュラムに追加された。その後、1976年(昭和51年)にカリキュラムの変更があり、現在のカリキュラムとなった。

*5:入学式、退任式、卒業式に使用するプランターの花々は全部園芸部のものである。

*6:さわべひかり。1996年11月3日生まれ、白櫻高等学校3年生。頭脳明晰、容姿端麗と、高嶺の花と噂される園芸部部長。この町の東にある里で中学生まで過ごし、今は町のマンションで一人暮らしをしている。

*7:田中満。1996年6月23日生まれ、白櫻高等学校3年生。

*8:みどりざくら。4月から5月にかけて咲く花。小川の周辺に自生している。手入れが容易で、誰でも育てられる。花が散った後、枯れてしまうが、花びらの付け根には種子がついているので、そのまま土の中に植えてあげると、夏にに再び芽を出す。ただし、乾燥に弱いので、1日に何度も水を与える必要がある。花びらは種子が独特な苦みを持つので、種子を取り除けば、食用として使える。

*9:この時、ステージの照明の明るさ調整のため、ステージしかついていなかった。

*10:昔、この地域では詩などで女を桜と例えていたりした。

*11:脳内で一度通った道、見た場所をを憶え、マップを組み立てるができる能力。

*12:あべみはる。1991年8月18日生まれ、白櫻高等学校教職員。数学担当兼1年2組担任を努める。おっとりとした性格で、ちょっとおっちょこちょい。教員になって、まだ数年しか経っておらず、未だに慣れないことがあるらしいが、それでも彼女なりの努力をしている。高校、大学と女子校暮らしだったので、度々無防備になって、隙が多くなる。特に碧とは個人で勉強を教えることが多く、その際に胸元が見えたりして、その都度、碧に何度も指摘されてきた。女子生徒からは「みっちゃん先生」という愛称で呼ばれている。

*13:困っている相手を助けたりする行動。

*14:生徒会の人数は全員で13人。尚且つ講堂は入学式の数日前まで緊急のメンテナンスがあり、生徒会はそっちの準備に追われていた。

*15:ほしかわまりな(真理菜)。1996年7月6日生まれ、白櫻高等学校3年生。園芸部所属で、光里とは中学からの親友。

*16:全文「ご来場の皆様に、お願い申し上げます。間もなく、10時30分をもちまして、本校入学式を開会いたします。伴いまして、お持ちの携帯電話、ゲーム機などの電子機器の電源をお切りいただくか、マナーモードもしくはミュート設定に切り替えていただきますよう、お願い申し上げます。また、式典中は、電子機器の操作をおやめいただきますよう、ご協力申し上げます。」

*17:この学校でのプログラムは次の通り。1.学校長挨拶 2.新入生入場 3.国歌斉唱 4.学校長祝辞 5.来賓祝辞 6.在校生祝辞(1クラス代表委員会及び部活動代表2名ずつ)7.新入生退場 8.教員紹介 9.科目説明(開会宣言、校歌斉唱、新入生呼称、新入生宣誓、保護者代表挨拶、閉会宣言はない)

*18:くおんじかえで。1958年3月12日生まれ、白櫻高等学校校長。物腰柔らかい性格で、誰にでも優しく接する。

*19:おくだみちる。1770年生まれ、1859年亡。白櫻高等学校の創設者。

*20:はせがわともあき(智明)。1982年5月10日生まれ、白櫻高等学校教務担当、兼公民担当教師。

AnotherTale Episode : Prologue

「執筆依頼?」

 __*1受け取った封筒の中から取りだした書類に大きく書いてある。

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 ゲームブランド「リンケージ」*2ビジュアルノベルが好きな人ならば誰もが知っているブランドだ。これまでにたくさんのビジュアルノベルを制作してきた。恋愛、ミステリー、日常。いろいろなジャンルの作品があり、僕*3もその作品を実際に手にとったことだってある。

 そんな企業から「執筆してほしい」との依頼はとても嬉しい。自分の作品が企業に見てもらえたんだと思えるから。だけど、僕はこういった依頼を、幾度となく断ってきた。

 理由は簡単。趣味で書いているだけ。そう、これはただ趣味で書いて、投稿しているだけ。それ以外の何でもない。

 企業の書類を封筒に入れて、そのままゴミ箱へ投げた。が、外した。

コンコン

 ドアがノックされ、僕は「いいよ」と言う。入ってきたのは妹の砂綾*4。砂綾はゴミ箱の近くに落ちている、僕が投げた封筒を拾いあげる。

「また、断るんですね」

「うん」

砂綾はその封筒をゴミ箱の中に落とし、僕に向かって歩み寄ってくる。

「まだ引きずってるんですか?あの日のこと」

言葉が出ない。確かに引きずってるかもしれない。裏切られたあの日のことを。

 長い沈黙が続く。そのたびに胸が痛くなってきて、それは砂綾も同じことで。

「私には、わからないんです」

長い沈黙を、彼女が破った。重苦しい空気が、少しでも軽くなったかなと思ったけど、それは逆に、僕の中で重くなってきて。

「あの方は、兄さんといろいろと言い出し合って、一つにまとめている光景を、私は幾度も目にしてきました。お二人とも、楽しそうで、何より、兄さんがとても楽しそうでした。私にも見せなかった顔を、してたんですよ?」

砂綾が一言言うたびに、心が重くなってくる。

 もういいよ。言わなくて。それは、一番、僕が知ってるから。だから、もうあの日のことは言わないで。

「毎日、『こうじゃない』、『これがいい』って言ってて。見ているこっちも、楽しくなってたんですから」

___

「だから、今でも信じられないし、わからないんです。どうして、兄さんを裏切るような真似を__」

「もういいよ!」

聞きたくなかった。あの日常を思い出すたびに、締め付けられて、何よりあいつのことが、もっと嫌いになってくるから。

「__」

再び訪れる沈黙。あまり大声を出すことのない僕が、こうやって妹に対して大声を出して、怖がらせる僕が嫌になってくる。このまま自分を殴ってしまいたいほど。

「ごめんなさい。出過ぎた真似を」

砂綾が謝ることではないのに。本当は僕が先に謝らないといけないのに。

「こっちこそごめん、大声出して」

「いえ、出過ぎた真似をしたのは、私の方ですから」

 砂綾の優しさに、僕は胸が締め付けられる。きっと砂綾は僕が負い目を負っていると思っているんだと思っている。この負い目は、きっと僕にはわからないと思う。どんなに自分と向き合っても、表に出さない僕は、自分でもわからないと思う。

 僕は砂綾とは違う。砂綾より賢くない。砂綾の賢さは僕が一番わかっている。心を顔に出さなくても、彼女は幾度となく気がついてきた。そして、それを口に出すことなく、何時も彼女に助けてもらった。そんな妹に対して、僕はこれまでに、何をしてきただろうか。

「それよりどうしたの?」

 僕は砂綾に微笑みを向ける。彼女はハッとした顔で同じように笑顔で返す。

「今日は、星が綺麗ですから、外で食べませんか?」

「外で?」

カーテンを開け、夜空を見上げる。夜空には沢山の星々が不規則に並べられていた。その星々は、自分を主張するかのように、白く輝いていた。星々を眺めながら食事というのはなんとも心が洗われそうだ。今の僕にぴったりなチョイスだ。

「星を眺めながら食事できる場所と言えば、『桜咲屋』とか?」

「洋食でしたら、『アステリー』とかでしょうか?どっちに行きましょうか?」

Choose Ohsakiya and Astely?

桜咲屋

「桜咲屋へ行こうか」

 僕たちは和食店の桜咲屋へ行くことにした。

 桜咲屋は創業300年の歴史を持つ老舗和食店だ。「桜咲き道に、屋台一つ。屋台出すふどん、凡で、優しき故里な味かな」という詩でお馴染みと言われているところだ。何度か足を運んだことがあり、1時間以内に入れたことはなかった。それほどの人気店だ。

「なんか久しぶりですね。こうやって兄さんと夜に食事に行くなんて。何時ぶりでしょうか?」

「うーん、最後に行ったのは、僕が中学校卒業する前だったから、1年数ヶ月かな?その時は母さんもいたけど」

 中学校卒業の数日ほど前だった気がするが、その時は母さんと一緒に来たので、砂綾と二人きりで行くのは今回が初めて、だった気がする。

「じゃあ私と二人で行くのは、今回が初めてでしょうか?」

「多分そうなるね」

 砂綾はどこか嬉しそうな顔をして、夜空を見上げる。紺碧の空に淡く天の川が流れていた。夏に向けて徐々に気温が上がり出すこの季節でも、夜は肌寒く、砂綾は細い二の腕を手で軽くゆっくりとさすっていた。

「少し、肌寒いですね」

そういって、苦笑い。

「うん、昼間は半袖で丁度いいって思ってたのに、夜は少し冷え込んできたね」

 昼間の最高気温は28℃と、半袖で過ごすには快適な気温だが、Quad*5にプリインストールされている天気予報アプリには、「現在気温:15℃」と書かれていた。

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「これから午前中まで晴れるみたい」

「ということは午後から雨ですか?」

「うん、時々だけどね」

砂綾が少しだけ表情を暗くする。どこか行く予定でもあったのだろうか?

「どっか行くつもりだったの?」

「明日昼過ぎから、緋菜ちゃんと一緒に隣街のカフェに行く予定だったんですけど。雨だったらちょっと」

 緋菜ちゃんは砂綾を幼馴染みで、僕と彼女らを含めた3人で小さいころはよく遊んだ。緋菜ちゃんとは最近学校でも会うことは少なくなってきたような気がする。

「そっか、だったら『マーシャル*6』の中にできた新しいカフェにでもすれば?」

僕が提案すると、彼女は右肘を左手に置くようにして、右手の人差し指を唇につけて、考える。

「そうですね、それもいいかもしれませんね」

砂綾は微笑んで肯定し、話題は別へと変わっていった。

 話しながら歩くこと数十分、目的地の桜咲屋に着いた。入り口前に12個ほど置いてある横長いベンチには、9個は満席だった。僕は入り口に置かれている名簿に名前と人数を書いて、ベンチに座る砂綾の隣に座る。

「相変わらず人が多い。また1時間以内には入れないか__」

「でも、今日はいつもより待っているグループの人数が多そうですよ?」

見ればグループで固まっている人数が多いところで10〜11人ぐらい、少なくても7〜8人はいる。

「団体客の場合は通される席が違いますし、仮にグループが3〜4人だったとしても、二人用の席がありますから、多分早くは入れそうですよ」

「そう」

ここに二人用の席があったなんてはじめて知った。何時も母さんを含めた3人で食事してたから、4〜6人用席と団体室しかないと思ってた。

 ここに来て待つこと20分ちょっとで、僕らが呼ばれた。店内に通され、中は相変わらずに賑わっており、スタッフは忙しそうに歩き回っている。案内された席に腰を下ろし、メニューに目を通す。

「うーん、どれもおいしそうです」

初めて来た客のような口ぶりをする砂綾は、メニューを食い入るように眺める。

 メニューにはどれも美味しそうに撮られたイメージが貼られ、どれを注文するか悩んでしまう。別に悩んじゃいけない理由なんてないんだけど。

「じゃあ、僕はこれにしよう。砂綾は?」

「待ってください。んー」

砂綾はまだ決まらないらしく、一生懸命悩んでいた。そして悩んだ結果、砂綾は決めたようだ。僕は席に置いてある呼び出しボタンを押す。

「ご注文おきまりでしょうか?」

すたすたと若い女性店員がやってきて、腰巻きエプロンのポケットからQuadを取り出す。

「僕は『旬の刺身定食』」

「私は『天ぷら盛り合わせ定食』で」

「お飲み物はどうされますか?」

「僕はアイスコーヒー、彼女はミントミルクティーで」

「かしこまりました。お飲み物は料理のあとでよろしいでしょうか?」

「ええ」

「かしこまりました」

 注文を終え、店員はそのまま厨房へと向かった。砂綾はこっちを見て、笑顔だった。

「さすが兄さん、私の好みをよくご存知で」

「何年お前の兄貴やってきたんだと思ってるんだよ」

 砂綾はいつも食後に紅茶を飲んでいて、月に応じて飲むものが変わっていた。5月である今、いつもならミントライムティー*7を飲むのだが、もうじき6月になる。6月になったら何時も彼女はフレッシュサワー*8を飲んでいるが、ここにはそれはなく、何か代わりになるようなものを探したとき、砂綾はミントの入った紅茶を飲んでいたので、ダメ元で選んでみたが、どうやら彼女も同じものを探し当てたみたいだ。

「私が家で良くやってますけど、ここには置いてなかったので、別のを注文しようかと思ったんですけど、どうやら兄さんに先を越されちゃいました」

砂綾が向ける笑顔は、とても嬉しそうだ。無事合って良かった。

「あ、兄さん見てください。星がすごく綺麗です」

 空を見上げると、沢山の星空で、これだけで心が満たされそうだった。

「ほんとだ。ここで食べると癒されそうだ」

「そうですね。こんなに綺麗だと、なんだかロマンティックな気分になりそうです」

「ふふ、そうだね」

 空を眺め、星に関するいろいろ話題を振りながらして、料理は届いた。お互い料理を口に運び、星を眺め、味を楽しんだ。

 食事を終え、帰路に就く僕ら。砂綾の顔はとてもうれしそうで、楽しめたようだ。

「僕が頼んだ紅茶、どうだった?」

「んー、そうですね。美味しかったは美味しかったんですけど、もう少しライムの香りがほしかったところですかね」

砂綾はちょっぴり申し訳なさそうな顔で答える。

「じゃあ、今回のはハズレ?」

「いえ、ハズレではなかったです。ライム以外はとても美味しかったですから」

「そっか」

「ただ、今度からは、別のでおねがいしますね」

ハズレではなかったものの、やはりすこし口に合わなかったようだ。あれ以外にも、「オレンジミントティー」や「ベリーミントティー」があり、どれにするか悩んだあげく選んだものなので、今度はもうちょっと考えて選ぶとしよう。*9

 その後、家に着き、僕は眠らせていたコンピュータを起こし、「プロスファー*10」を立ち上げ、調べ物をいくつかこなす。そして、日付が変わる手間で、再びコンピュータを眠らせ、僕も電気を消して、ベッドの中で眠りについた。

アステリー

*1:ダッシュ記号の代わりです。

*2:ゲーム制作会社カラーズの中にある制作チーム。主にビジュアルノベルを手掛ける。2003年設立、数々のノベル作品を制作した。シナリオは基本作家による契約制。作品の中には映画化、アニメ化したテーマもある。

*3:蒼井裕。本作の主人公。オンラインブックサービスレッドブック」に作品を投稿する作家。成績優秀で人当たりも良く、しっかりした性格から、周りからは頼られることも多く、その性格から、憧れを抱く女生徒も少なくない。物事を瞬時に考え、行動するタイプ。基本的には周りを見て、適切な判断を出すが、場合によっては自分から突っ込むことも。中学校までは絵を良く描いていて、絵のクオリティは高い。が、作品を自分から周りに見せようとせず、コンクールに出展したことがない。小説の挿絵も彼が描いている。

*4:蒼井砂綾、旧姓緋科(ひしな)。裕の義妹で、出逢ったのは小学校低学年のとき。しっかり者で、家での家事全般を裕と行うが、基本一人でこなす。学校では兄そろって成績優秀の優等生。自分から率先して物事を行い、周りからの信頼は厚い。友達とおしゃべりするのが好きだが、異性と話すのは少々苦手。どんな相手にも敬語で話す。裕の一番の理解者で、彼が困っていたとき、何時も彼女が寄り添い、励ましていた。そのため、裕からの信頼も厚いが、彼に対する信頼も厚い。意外と甘えん坊で、何時もは「兄さん」と呼ぶが、時々「お兄ちゃん」と言って彼にくっつく(二人きりのときだけ)。無類の紅茶好き、だが特に紅茶に対するこだわりはない。自分でオリジナルの紅茶を作ることも。

*5:一般的なスマートフォン。Quadシリーズの中でも裕の持つ機種は「Office SDK(Spreadsheet,Document,Keynote)」タイプ。書類作成、表関数計算、プレゼンテーションなどのオフィス上の作業が行える機種。

*6:咲河市で最も大きいストリートデパート。服、食品、カフェ、映画などが立ち並ぶストリートで、それを全称し、ストリートデパートとして存在する。

*7:通常の2倍の濃さにした紅茶に、ライムシロップ、カシスシロップを加え、その上にミントとライムを飾ったもの。アイスにして飲む。

*8:フレッシュサワーティー。夏に飲むのが好ましい紅茶のレシピの一つ。ティーポッドにレモングラス茶葉を入れ、120ccの熱湯で蒸らし、ライムシロップをグラスに15〜30cc(分量はお好み)入れ、氷を5〜6個入れる。そして蒸らして作った紅茶液をそっと静かに注ぎ、炭酸水をそっと注ぐ。最後にミントとスライスレモンを飾れば完成。

*9:桜咲屋の紅茶は、季節に合わせたラインナップで、春は「桜ミルクティー」や「シナモンティー」、冬は「チョコミントミルクティー」や「柚レモンティー」などが提供される。

*10:IBS(Internet Browsing Software)アプリケーションで、裕の使う「」

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