十六夜月の記憶
リハーブリッジ大陸に住む者なら、誰もが知っている。この大陸にある三大国家について。
この三大国家のうち、最も軍事力の高い国家、ファロライン。それを称賛する者、疎ましく思う者、見方はどうであれ、一目置いてることに違いは無い。
ファロラインでは、他の2国とは違い、その歴史は戦渦の歴史であった。元々オーズライン家が治めていた小さな国が、この長い歴史の中で、国土を広げ、今では周りから一目置かれる存在へと変わった。
負けを恐れないこの国だが、一度だけ、この国家が負けた歴史があった。それは海をまたいだところに位置する、パラディウラ。戦いを望まない国家であったこの国が、一度だけ戦火の中に飛び込んだ戦いだった。当時最強と呼ばれていた国家が、この戦いで、黒目が付くなんて誰が予想しただろうか。
そんなファロラインのとある地域で、物語は進み出す。
ファロラインには二つの地域がある。
その1つであるハイズランドは、海の上にできた海上都市だ。この都市へ通じるビジールート(訪問ルート)は新幹線と航空の二つのみ。
その飛行機の中に一人水平線を眺める新見創哉(そうや)は、ハイズランドにある学園へ入学する学生だった。
高校三年生の秋、創哉は未だに進路が決まっておらず、一人進路を模索する中、従姉からハイズランドの学園への進学を進められ、見事合格した。
しかし、彼はただの学生ではない。彼もまたエレメントを持つチャンピオンの一人だった。しかもただのチャンピオンとは違い、周りの状況に変化して自らのエレメントを変えることのできる、ローグのスペルを持っていた。
彼のことはこれだけではない。
彼は元々ハイズランド出身だ。幼いころ、この地で母親が行うローグの研究の実験体として生活していた。しかし、ある日を境に、彼の人生は一変した。
創哉の持つローグは母親の研究で生み出され、それを彼が継いだもの。しかし、この日運び込まれたのは、元々ローグのスペルを持っていた少女だった。
母親は冷酷にも、創哉からその少女に実験体を変え、彼は棄てられた。それを見かねた従姉に、彼は引き取られた。
そんな冷酷な過去を持つ創哉がたどり着いたハイズランドでの生活は想像を超える者であった。
彼の行くセンストリング学園チャンピオンたちの集まる学園だった。世界各国から集まるチャンピオンたちの能力を伸ばすために創られた学園だった。
入学直後、創哉は瞬く間に有名になった。ローグというスペルは誰も聞いたことのなかったスペルで、珍しい人物として、周囲には人だかりができていた。英国の財閥の娘、カタリナ・アドウェール。ファロラインの少女、草部ナオミ。沢山の仲間に囲まれた。
しかし、ローグのスペルを持っていたのは、彼だけではなかった。昔運ばれてきた少女が、その学園にいた。
レイン・オールスティン。背中の中央まで伸びる白い髪は、幾人も人間が振り返る。ローグのスペルを持つ彼女は、珍しくウィーク(弱点)を持たなかった。
そんな彼女には、創哉は少しの興味を持つだけだったが、レインはそうでなかった。
たった一人だと思っていたローグのスペルを持つ者が、今目の前に現れたのだ。レインは創哉をライバル視し、彼とぶつかることが多かった。そんな中、創哉の本当の姿を目にしたのは、合宿訓練の時だった。
当時、パラディウラやシンボリウラなどでチャンピオンによる莫大な被害が多発していた。それが、彼らの前で起こった。
燃え広がる木々、彼らを囲む大量の敵。この状況で、唯一冷静でいられたのは、創哉だけだった。
創哉は一気に攻めていきた敵を炎で焼き払い、彼らを導いて生還した。全員が無事な中、たった一人ひどく怪我を負った創哉に、レインは加護の光*1で傷を癒した。
彼女が知らなかった彼の一面、それは彼女の中にあった彼のイメージを大きく変える一つのきっかけになった。
それから、彼女は積極的に彼と関わるようになった。仲間たちと同じ時間をともに過ごすようになり、徐々に彼女の顔にも笑顔が現れるようになった。
沢山の仲間たちともに、彼らは今も忙しいながらも、楽しい学園生活を送る中で、被害を食い止めるために、日々戦っている。
*1:パーティクルスキル(Pスキル)光の再生能力を生かし、対象の怪我を治し、状態異常を消すことができる。怪我の具合がひどくなるほど、自身への負担が大きくなる。また、使用中、4.5秒間の詠唱が必要である。